


地域の人々が受け継いできた伝統の祭り。神輿などの流失で存続の危機に
故郷の暮らしの中で、土地の人々が長い年月をかけて磨き、受け継いできた“祭り”。特に「伝統芸能の宝庫」といわれる東北地方では、個性的な祭りが数多く行われ、地域の人々が心を通い合わせる場として重要な役割を持つ。
しかし、東日本大震災の津波により、東北地方沿岸部では祭りに必要な神輿や山車、太鼓などが多数流失・損傷してしまった。また集う場所が失われたこと、後継者育成のための余裕がないことなどで、伝統の存続は危ぶまれていた。芸能の保存・継承をしなくてはならないというだけでなく、どの地域でも祭りは生きるための活力と言える。「祭りがなければ復興への意欲も湧かない」という声も聞かれた。
祭りの復活を応援する基金を設立。神輿や山車の修理購入費の助成や社殿の再建も
そこで日本財団では、「各地の象徴的な芸能や祭りの復活を支援することによって、絆をつなぎとめ、コミュニティの崩壊を防ぐ」ことを目的として、「地域伝統芸能復興基金」を設立した。この基金の元となったのは、日本音楽財団が所有するヴァイオリンのストラディヴァリウスを売却した資金だった。
日本音楽財団は、音色の美しさや骨董的価値などから収集品として高額な値で取引されるストラディヴァリウスを多数所有し、数々の演奏家たちに無償で貸与してきた。そして東日本大震災の復興を支援するため、1721年製の「レディ・ブラント」をロンドンのオークションに出品。ストラディヴァリウスとしては過去最高額の1589万ドル(約11億7000万円)で落札された。これを日本財団に寄付した。
日本財団は、これまでに各地の芸能を次世代に伝える事業を積極的に展開してきた経験を生かそうと、現地に調査に入った。被災地で伝統芸能に関わっている団体や大学の教授などにヒアリングを実施。また、本当に地元の人々が祭りを復活させたいと願っているのかといった点にも留意して調査を行った。その結果、各地方の中核的な年中行事や芸能・祭りに関わる芸能団体をサポートすることに決定した。
2011年7月から支援を開始し、芸能や祭りに必要な神輿や山車、太鼓、笛、衣装などの修理や新規の購入に係る費用について、芸能保存会や神社等を対象に助成してきた。また、祭りが行われる場である神社そのものも被災していることから、神社復興を目的に、境内を囲う鎮守の森を地域住民の手で植樹して復活させる鎮守の森復活プロジェクトを実施。2013 年度からは社殿の再建にも取り組んでいる。
最初に支援した岩手県釜石市にある釜石虎舞保存連合会は、基金で虎舞と呼ばれる舞踊に使われる山車の製作を進め、伝統芸能の継承のために必要となる物品を購入した。伝統芸能に使われる物品は地元で製作されることが多く、被災地の手工芸の活性化にもひと役買っている。
180の芸能保存会や神社等を支援。祭りの再会で結束が強まり、戻ってくる住民も
2014年度末までに180団体に対し約11億6千8百万円の支援を行った。
震災後すぐに祭りを再開できたことで、被災してもまた同じところに家を建てようと戻ってくる人もあり、結束が以前より強まった。自分たちが継承している伝統芸能の素晴らしさを再認識したことで、震災前よりも芸能に参加したいと言う子どもが増えた地域も多い。社殿をなんとか再建したいと募金活動を継続していたところ、神輿渡御の再開を強く願う住民が増え、震災前の盛り上がりを見せている地域もある。
プロジェクトデータ(2014年度末時点)
-
- 事業名
- 山車の制作及び太鼓の購入等(2011年度)
被災した鎮守の森再生に向けた植樹等(2012年度)
神楽面の制作及び神楽用物品等の購入等(2013年度) - 被災した神社の再建等(2014年度)
-
- 原資
- 地域伝統芸能復興基金
-
- 期間
- 2011年6月~
-
- 場所
- 岩手、宮城、福島
-
- 拠出総額
- 11億6871万6322円