


コミュニティのQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を守る事業は、課題の数値化も成果の可視化も難しい。ゆえに、実際に生活を送る上での困り事があるにもかかわらず、支援が及ばないというケースも多い。ここでは、住民の暮らしに寄り添うジョンソン・エンド・ジョンソン社会貢献委員会からの寄付金が活かされた3つの事業を紹介する。
仮設住宅におけるコミュニティへの支援 ~住民の「お手伝い」と「つなぎ役」~
震災後、7県の900を超える地区で建設された仮設住宅の数は5万3千戸を上回った。しかし各地域の仮設住宅運営においては、引きこもりや孤立世帯、コミュニティ・自治会醸成の難しさ、山積する住民の困りごと等、多くの課題があった。こうした課題の解決に向けて2011年度の終わり頃から岩手県沿岸の市町で、仮設住宅におけるコミュニティ向けの支援事業がはじまった。
この事業では、仮設住宅住民の生活支援とコミュニティづくりのために「支援員」と呼ばれるサポートスタッフが全ての団地に常駐した。各町村には年中無休のコールセンターも設置。専任スタッフが全仮設住宅民と外部からの問い合わせを一手に受けつけ、行政機関や民間サービスにつなぐ等の対応を行う。現場でスタッフに寄せられる内容は、雨漏りの修繕要請から生活保護に関わる相談まで多岐に渡るが、マニュアル作成とノウハウ蓄積によって対応体制の強化と効率化を図った。支援員と、コールセンタースタッフ、さらに支援員をまとめる地区マネージャーなども含め、事業開始当初の約1年間で300名を超える雇用が被災地に創出された。
~モデル化による横展開~
本支援事業は、もともと大船渡市で先行していた取り組みが被災地における先進事例として注目を集めたことから、2012年2月に大槌町、同年3月に釜石市へ横展開するところからスタートしている。展開にあたり必要となった仕組みの「モデル化」において、ジョンソン・エンド・ジョンソン社会貢献委員会の寄付金を活用。仮設住宅を個別訪問してのアセスメント調査から、支援員のスキルアップへ向けた研修の実施、「自治会チャレンジ」と言われる自治活動活性化のための企画推進などが行われ、地元の中間支援組織の設立にもつながった。こうしたノウハウと成果を取りまとめ、他県でも活用してもらおうと2012年11月には「仮設住宅支援事例共有セミナー」を開催。仮設住宅での暮らしが長期化している福島県と連携し、2013年度から双葉町の避難者自治会、2014年度からは南相馬市においても同モデルをアレンジして展開している。
福島で安心して子育てできる環境を整える、助産師によるパーソナルサポート



また、福島において安心できる子育て環境を作り出し、東北の地からたくましい子供を育もうというコンセプトから、2012年12月「東北子育てプロジェクト」が始まった。日本財団は、一般社団法人ジェスペールを介し、本プロジェクトも支援している。
東日本大震災の被災地、特に福島では、医療・交通インフラの被害、復興の遅れ、転居・避難に伴う生活環境の変化、放射能汚染など様々な問題から心の病を抱える妊婦・母親が急増していた。しかし、これらは深刻ながらも直接命に関わるものではなく、高齢者や障害者問題に比べ社会的認知度が低いこともあり、具体的なサポートが後回しにされがちだった。「東北子育てプロジェクト」はこの課題と向き合い、福島の妊産婦と乳幼児に安心できる子育て環境を提供し、福島のお母さん、ひいては未来の子供達を、サポートしようという思いから始まった。
プロジェクトの主な活動は二つ。[1]地域産後母子支援拠点の運営と[2]母子ケアサロンの開催だ。[1]は「会津助産師の家おひさま」を拠点とし、産後最長1ヵ月の滞在受け入れ、妊婦教育地域母子の家庭訪問からメンタルケアまで、助産師が対応・指導する。産後入院期間の短縮が問題となる中、最長1ヵ月の滞在受け入れは異例の体制だ。
[2]は県内(伊達市、二本松市等)と、避難先の県外(岩手県、宮城県、新潟県、東京都、神奈川県、埼玉県)合わせて15ヵ所という幅広い地域で開催。こちらの活動でも助産師が主体となり、広域なネットワークを活かして子育て相談、子育てに関するレクチャー、ベビーマッサージや成育チェックなどを、対応・指導した。お母さんたちが心を落ち着けてゆっくりとした時間を過ごせる場としてのサロン運営を心がけ、悩み相談には助産師が親身に応える。活動の結果、サロンの参加親子は開始から2014年3月末の事業終了までに延べ6,380組にものぼった。この数字を見ても実に多くの母親が精神的な支援を必要としていたかが伺える。
本事業がきっかけとなり、福島県内では県からの委託事業に、県外では各避難先の自治会活動に、それぞれサロン活動が取り入れられ、各地で継続的な取り組みが行われている。
子どもたちの心身の健康を守る、運動プログラムの普及
2012年度の学校保健統計調査では、福島県の子どもの肥満傾向が続いている実態が明らかにされ、以降この傾向は継続している。しかし、これは表面的な現象の一つにすぎない。そう語ったのはNPO法人地球の楽好の千葉代表だ。原発事故後の除染作業が一巡以上している都市部でさえ、放射線への不安から子どもの屋外活動を制限している地域も少なくない。プレゴールデンエイジ、ゴールデンエイジと言われる神経系の最も発達する時期の子どもが、適切な運動機会を確保できないことで、運動機能はもとより、心の発達にも無視できない影響を与えている。このことに真摯に向き合い、対策を講じる必要があった。
2014年2月、まず取り組んだのは、3歳から小学校低学年までの子どもを持つ親への研修会だった。研修と言っても悩み相談もできるサロンのような場。今子どもの体に何が起こっているのか、どんな運動習慣が有効なのか。子どもの心身の成長に関する正しい知識を身につけてもらい、わが子に向き合う日常生活の中でまず実践・実感してもらう。
さらに、2014年5月からは親子で参加できる運動教室や、児童館、保育園への出前運動教室を開き、研修を受けた親はボランティアスタッフとして、より多くの子どもの運動をサポートできるように働きかけた。運動教室で実践する内容は、動物のまねっこや忍者修行など。運動の得意不得意によらず、子どもがしたくなる動きの中に、神経系の成長に必要な要素を織り交ぜている。
保育の専門家である保育園教諭たちであっても、子どもたちの体に何が起こっているのか、どう対策したら良いのか、分からないというケースは多い。「手をついて転べない子が多くなったとは思っていた。」「給食袋のひもを壁のフックに掛けられない(距離感がつかめない)児童がいるのはショックだった。」こうした声が出つつも、漠然としていた不安の正体が見えるようになると、日々の保育の時間に導入できるようになっていく。
「カラダの楽好(がっこう)」と名付けたこの運動プログラムは、当初予定以上の開催要望があった。2015年3月末まで、小学校低学年のみで29ヵ所136回、参加児童は2,021名であり、増加傾向にある。また、21回の研修会を通じて、48名の保護者がボランティア登録をしている。
地元の企業による告知協力や社員の参加、行政との連携も進んできており、2015年度は、同様の課題を抱える地域にさらに普及できるよう、動画や教材の開発、ボランティアとコーチングスタッフの育成を進めていく構えだ。
プロジェクトデータ(2015年度末時点)
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- 事業名
- ①仮設住宅におけるコミュニティリーダー支援 (2012年1月~2013年3月)
②東北子育てプロジェクト (2012年12月~2015年3月)
③仮設住宅におけるコミュニティ形成支援 (2013年9月~2015年9月)
④地域で育む子どもの発育・発達支援 (2013年9月~2014年8月)
⑤仮設住宅におけるコミュニティ形成支援(2014年10月~2015年12月)
⑥地域で育む子どもの発育・発達支援2015プロジェクト(2015年6月~2016年7月)
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- 実施団体
- (特)いわて連携復興センター >上記①③⑤
(一社)ジェスペール >上記②
(特)地球の楽好 >上記④⑥
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- 期間
- 2011年~2016年
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- 場所
- 岩手県、宮城県、福島県
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- 拠出総額
- ①仮設住宅におけるコミュニティリーダー支援 > 29,531,137円
②東北子育てプロジェクト > 22,859,242円
③仮設住宅におけるコミュニティ形成支援 > 81,547,459円
④地域で育む子どもの発育・発達支援 > 10,000,000円
⑤仮設住宅におけるコミュニティ形成支援 > 45,445,939円
⑥地域で育む子どもの発育・発達支援2015プロジェクト> 5,000,000円