


福島の人々の不安をやわらげるために
緊急シンポジウム:福島原発事故~“誰にでもわかる”現状と今後~
日本財団(東京都港区)は2011年4月5日、東電福島第1原発事故を受け、放射線医学の第一線で活躍する専門家による緊急シンポジウムを開催した。これまでチェルノブイリの被曝者医療などに20年間携わり、今回、福島県の放射線健康リスク管理アドバイザーにも任命された長崎大大学院・山下俊一教授、東京大学名誉教授・前川和彦、放射線医学総合研究所放射線防護研究センター上席研究員・神田玲子の3名だ。
震災後一ヵ月も経たなかった当時、放射性物質の飛散状況を示す詳細なデータの不足や政府発表のぶれ、さらに放射線に対する誤った知識や偏見などもあって国民は混乱し、誤ったメッセージが海外にまで広がっていた。本シンポジウムでは、チェルノブイリ原発事故や東海村臨界事故などの経験を踏まえ福島第1原発の現状と今後についての講演を行った。シンポジウムの模様はUSTREAMでのライブ配信も行われた。
国際専門家会議「放射線と健康リスク―世界の英知を結集して福島を考える」
東京電力福島第一原子力発電所事故から半年が過ぎた2011年9月11日と12日、福島県立医科大学にて日本財団の主催による国際専門家会議「放射線と健康リスク」が開催された。
最初のセッション『福島の現状』では事故発生から今日までの福島の姿が報告された。放射線医学総合研究所放射線防護研究センターの酒井一夫氏は「(事故発生当初の報道は)放射能によるダメージの話題ばかりが先行」しており、不安にかられる住民の間では科学的根拠のないうわさ話が広まったことを指摘。「放射線影響研究および放射線防護の専門家は一般の人々に対して内部被ばくの概念をきちんと伝えるべき」だと訴えた。続く『放射線生物学と放射線防護学/安全:基礎と疫学と分子疫学』と題したセッションでは京都大学の丹羽太貫氏が「医師は一人ひとりの個人的リスクと、統計学的なリスクの双方を見た上で、患者の助けになるようアドバイスをしていくべき」との意見を述べている。
また、身体的リスクのみならず精神的リスクについても議論が交わされた。ニューヨーク州立大学ストーニブルック校のエヴェリン・ブロメット氏によれば、チェルノブイリ原子力発電所事故やスリーマイル島原子力発電所事故の後、多くの住民に抑うつや不安、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの影響が認められているという。影響を及ぼす要因は自分自身や肉親の健康、将来的な不安、社会の偏見など多岐にわたる。ブロメット氏は「心の病は体の病と分けて考えるべきではない」として、福島でもメンタルケアを充実させるべきだと訴えた。
提言の作成後には記者会見が行われたが、内部被ばく、メンタルケア、がんなど、これだけ多分野の専門家が結集する機会はこれが初めてであり、3時間以上にわたって質疑応答が繰り広げられた。
世界の放射線専門家との直接対話集会
福島第一原発事故で計画的避難区域に指定されている飯舘村役場関係者と海外の放射線専門家との直接対話集会が2012年4月21日、飯野町に設置された飯舘村出張所で開催された。上記の国際専門家会議「放射線と健康リスク―世界の英知を結集して福島を考える」の“続編”。前回は32人の世界の専門家が出席し、この集会では前回出席した専門家の5人が引き続き来日、「福島県職員」、「警察・消防・自衛隊関係者」、「医療関係者」とも対話し、「トンネルの先に光が見えてきた」(国際放射線防護委員会主委員会のアベル・ゴンザレス副委員長)といった感想も聞かれた。
飯舘村の対話集会には村議や農業関係者、教員ら約70人が参加。村関係者からは「当初“直ちに危険はない”といった情報が流され、避難が始まるまで1ヵ月以上、高濃度の汚染にさらされた」、「不信感がある限り次のステージに進めない」、「専門家からいろんな数字が出ている。20ミリシーベルトなら大丈夫なのか、それとも1ミリシーベルトでなければ駄目なのか」といった苦悩や質問が出された。
締めくくりの会見でブロメット教授は「飯舘村の住民には“裏切られた”といった気持が強く残っているようだ」と指摘、ゴンザレス氏は「怒りだけでは解決できない。将来を見ることが必要」と述べた。このほか各委員からはチェルノブイリ事故の追跡調査も含めた日本財団の活動を高く評価する声も出た。
プロジェクトデータ
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- 事業名
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緊急シンポジウム:福島原発事故~“誰にでもわかる”現状と今後~
国際専門家会議「放射線と健康リスク―世界の英知を結集して福島を考える」
世界の放射線専門家との直接対話集会
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- 実施団体
- 日本財団(自主財源)
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- 期間
- 2011年4月、9月、2012年4月
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- 拠出総額
- 約3445万円